鼻をくんくん鳴らし下駄をコロンコロン鳴らしてあるくようになった。自分で気づかないうちに染まってしまうのである。
 それで塾の者が先生と一緒に五、六人あるくと、くんくんコロンコロン、くんくんコロン……で実に賑やかなものである。

 師弟の間柄ともなれば、そこまで習いこんでこそ師となり弟子ともなった深さがあるのではなかろうか。
 もちろん画のほうもとことん[#「とことん」に傍点]まで師のものを身につけなくてはいけないと思う。
 それから以上は、そのお弟子さんの頭の問題であって、素質のいい者は、そこまで行きその学んだものを踏台として、次に自分の画風を作ってゆく訳である。
 師の中へとび込まなくてはいけない。しかしいつまでもその中にいては師以上には出られない。
 ――と、先生は常に弟子たちに申された。

 松年塾に、斎藤松洲という塾頭がいたが、この人はクリスチャンでなかなかハイカラであった。
 非常に文章のうまい人で、字も画以上にうまかった。
 ほうぼうで演説をしたりして気焔をあげていたが、そのうち笈を負うて上京し、紅葉山人などと交友し、俳画で以て名をあげた。本の装幀もうまかった。
 私をスケ
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