らか野鳥が飛んで来てはゆすら梅に止まって囀りはじめる。すると籠のなかの小鳥たちもそれに和すように鳴き出す。
 木々の間をぬうて歩めば掘り池に緋鯉の静寂がのぞかれる。
 朝の一瞬、貧しいながらここは私にとってまったくの浄土世界です。

 毎年五月の七日か八日ごろが私のところの衛生掃除に当たっている。それを区切りとして夏の暑いさかりを階下の画室で、またお盆過ぎになって文展の制作を機に二階の画室へ、これが私の上下画室の使用期になっております。冬は二階の方が陽あたりはよく、暖くもあり、夏は階下の涼しい木蔭の方が制作し易いからです。

 画室の至るところ、この隅には手控えの手帖が数冊、ここには子供ばかりをスケッチしたノートがかためて置かれてあり、また階下の画室のどこそこには桜花ばかり描いた縮図帳が、と私の上下の画室内部には、私の絵に必要な用紙、絵具、絵筆から絵具の皿に及ぶさまざまなものが散在していて、私でないとどこになにがあるかということの見当はまずつきそうもない。
 しかし自分ではそれぞれの在り場所が不思議なほどよく呑みこめていて、別にあらたまって整理の必要は感じたことがありません。

 画室
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