者にとってははるかにむつかしさ[#「むつかしさ」に傍点]を感じるのである。
お夏のは、全くの狂乱であり、照日前のは、君の宣旨によって「狂人を装う」狂乱の姿なのである。そこに、お夏の狂態と照日前の狂態にへだたりが見えるのでもあろう。
狂人を見るのでしたら岩倉村へゆけばよいでしょう。と、ある人がわたくしに教えてくれた。
京都の北の山奥岩倉村にある狂人病院は、関西のこの種の病院では一流である。狂人病院の一流というのは妙な言い方であるが、とにかく、岩倉の病院といえば有名なもので、東京では松沢病院、京都では岩倉病院とならび称される病院なのである。
岩倉へゆけば、狂人が見られるには違いないが、照日前のモデルになるようなお誂えむきの美狂人がいるかどうか――と案じていると、
「某家の令嬢で、あすこに静養している美しい方がモデルにふさわしいと思うが」
と、教えてくれる人もあったので、わたくしは幾日かを狂人相手に暮すべく、ある日岩倉村へ出かけて行った。
狂人というものは、静かに坐っていたり、何かこつこつやっている姿をみていると、
(これが狂人か?)[#「)」は底本では「」」]
と思うくら
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