って挨拶しました。母は、こんなずばっとしたことを時々やります。

     生粋の京娘

 けれど一方世帯持ちは実によいのでした。こんな話をすると人は何と思われるかしれませんが、母は戴きものをすると、水引きは丁寧にほどき、長い棒にあてて、紙でくるくるとまく。のしはすぐ箱にしまう。紙は上の一枚は反古紙にするが、二枚目の紙は折目があったらこてで延ばし、同じ大きさの紙と一緒にして棒の芯にまいてとっておく。使いたいとき取り出すと、どれも真新しいものと変りないのです。万事がこういうふうで実によく頭を働かせた。手まめに何事も処理していました。無駄をしないという気持はけちな気持とは全然ちがうと思います。すべき時には、ずばっとやり、わが身辺には、心を使って無駄をしない。この心がけはいつの世にも貴いものだと思います。私も母に特に言い聞かされたというのではないのですが、見よう見まねでその通りやっております。
 母は高倉三条のちきりやという、冬はお召、夏は帷子《かたびら》を売る呉服屋に通勤していた支配人の貞八の娘でした。生粋の京の町娘というわけです。
 私は親は母一人と思って育ったのです。父がないのを、さび
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