六年、きみたち千人、私は、ひとり。

二十一日。
 罰。

二十二日。
 死ねと教えし君の眼わすれず。

二十三日。
 「妻をののしる文。」
 私が君を、どのように、いたわったか、君は識《し》っているか。どのように、いたわったか。どのように、賢明にかばってやったか。お金を欲しがったのは、誰であったか。私は、筋子《すじこ》に味の素の雪きらきら降らせ、納豆《なっとう》に、青のり、と、からし、添えて在れば、他には何も不足なかった。人を悪しざまにののしったのは、誰であったか。閨《ねや》の審判を、どんなにきびしく排撃しても、しすぎることはない、と、とうとう私に確信させてしまったほどの功労者は、誰であったか。無智の洗濯女よ。妻は、職業でない。妻は、事務でない。ただ、すがれよ、頼れよ、わが腕の枕の細きが故か、猫の子一匹、いのち委《ゆだ》ねては眠って呉れぬ。まことの愛の有様は、たとえば、みゆき、朝顔日記、めくらめっぽう雨の中、ふしつ、まろびつ、あと追うてゆく狂乱の姿である。君ひとりの、ごていしゅだ。自信を以て、愛して下さい。
 一豊《かずとよ》の妻など、いやなこった。だまって、百円のへそくり出されたと
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