る。
「日没の唄。」
蝉《せみ》は、やがて死ぬる午後に気づいた。ああ、私たち、もっと仕合せになってよかったのだ。もっと遊んで、かまわなかったのだ。いと、せめて、われに許せよ、花の中のねむりだけでも。
ああ、花をかえせ! (私は、目が見えなくなるまでおまえを愛した。)ミルクを、草原を、雲、――(とっぷり暮れても嘆くまい。私は、――なくした。)
「一行あけて。」
あとは、なぐるだけだ。
「花一輪。」
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サインを消せ
みんなみんなの合作だ
おまえのもの
私のもの
みんなが
心配して心配して
やっと咲かせた花一輪
ひとりじめは
ひどい
どれどれ
わしに貸してごらん
やっぱり
じいさん
ひとりじめの机の上
いいんだよ
さきを歩く人は
白いひげの
羊飼いのじいさんに
きまっているのだ
みんなのもの
サインを消そう
みなさん
みなさん
おつかれさん
犬馬の労
骨を折って
やっと咲かせた花一輪
やや
お礼わすれた
声をそろえて
ありがとう、よ、ありがとう!
(聞えたかな?)
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二十日。
この五、
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