いますが、その馬の腹帯は破れていますよと、かの宇治川、佐々木のでんをねらっていることに、気づくがよい。名への恋着に非ず、さだめへの忠実、確定の義務だ。川の底から這いあがり、目さえおぼろ、必死に門へかじりつき、また、よじ登り、すこし花咲きかけたる人のいのちを、よせ、よせ、芝居は、と鼻で笑って、足ひっつかんで、むざん、どぶどろの底、ひきずり落すのが、これが、リアルか。」かれ少し坐り直して、「リアルとは、君の様に、針ほどのものを、棒、いや、門柱くらいに叫び騒がずして、針は、針、と正確に指さし示す事なり。」「愚かや、君は、かの認識の法を、研究したにちがいない。また、かの、弁証法をも、学びたるなるべし。われ、かのレクチュアをなす所存なけれど、いまの若き世代、いまだにリアル、リアル、と穴てんてんの青き表現の羅紗《らしゃ》かぶせたる机にしがみつき、すがりつき、にかわづけされて在る状態の、『不正。』に気づくべき筈《はず》なのに、帰りて、まず、唯物論的弁証法入門、アンダラインのみを拾いながらでもよし、まず、十頁、読み直せ。お話は、それから、再びし直そう。」かく言いて、その日は、わかれた。
リアルの最
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