のみ思い浮べる油肥りの生活を! 眼を、むいて、よく見よ、性のつぎなる愛の一字を!
求めよ、求めよ、切に求めよ、口に叫んで、求めよ。沈黙は金という言葉あり、桃李《とうり》言わざれども、の言葉もあった、けれども、これらはわれらの時代を一層、貧困に落した。(As you see.)告げざれば、うれい、全く無きに似たり、とか、きみ、こぶしを血にして、たたけ、五百度たたきて門の内こたえなければ、千度たたかむ、千度たたきて門、ひらかざれば、すなわち、門をよじのぼらむ、足すべらせて落ちて、死なば、われら、きみの名を千人の者に、まことに不変の敬愛もちて千語ずつ語らむ。きみの花顔、世界の巷ちまた、露路の奥々、あつき涙とともに、撒き散らさむ。死ね! われら、いま、微細といえども、君ひとり死なせたる世の悪への痛憤、子々孫々ひまあるごとに語り聞かせ、君の肖像、かならず、子らの机上に飾らせ、その子、その孫、約して語りつがせむ。ああ、この世くらくして、君に約するに、世界を覆う厳粛華麗の百年祭の固き自明の贈物のその他を以《もっ》てする能わざることを、数十万の若き世代の花うばわれたる男女と共に、深く恥じいる。
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