を、私たちの胸ひろくして、母を、兄を、抱き容れて、眠り溶けさせることができるのだという事実を。その時には、われらにそっと囁《ささや》け、「私たちは、愛さなかった。」
「まあいいよ。人の心配なぞせずと、ご自分の袖のほころびでも縫いなさい。」それでは、立ちあがって言おうじゃないか。「人たれか、われ先に行くと、たとい、一分《いちぶ》なりとも、その自矜うちくだかれて、なんの、維持ぞや、なんの、設計ぞや、なんの建設ぞや。」さらに、笑ったならば、その馬づらを、殴れ!
あなた知っている? 教授とは、どれほど勉強、研究しているものか。学者のガウンをはげ。大本教主の頭髪剃り落した姿よりも、さらに一層、みるみる矮小化《わいしょうか》せむこと必せり、
学問の過尊をやめよ。試験を全廃せよ。あそべ。寝ころべ。われら巨万の富貴をのぞまず。立て札なき、たった十坪の青草原を!
性愛を恥じるな! 公園の噴水の傍のベンチに於ける、人の眼恥じざる清潔の抱擁《ほうよう》と、老教授R氏の閉め切りし閨の中と、その汚濁、果していずれぞや。
「男の人が欲しい!」「女の友が欲しい!」君、恥じるがいい、ただちに、かの聯想
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