ク体]、畜生のかなしさ。
むかしの築城の大家は、城の設計にあたって、その城の廃墟《はいきょ》になったときの姿を、最も顧慮して図をひいた。廃墟になってから、ぐんと姿がよくなるように設計して置くのである。むかしの花火つくりの名人は、打ちあげられて、玉が空中でぽんと割れる、あの音に最も苦心を払った。花火は聞くもの。陶器は、掌に載せたときの重さが、一ばん大事である。古来、名工と言われるほどの人は、皆この重さについて、最も苦慮した。
などと、もっともらしい顔して家の者たちに教えてやると、家の者たちは、感心して聞いている。なに、みな、でたらめなのだ。そんなばからしいこと、なんの本にだって書かれてはいない。
また言う。
こいしくば、たずね来て見よいずみなる、しのだの森のうらみくずの葉。これは、誰でも知っている。牝《めす》の狐の作った歌である。うらみくずの葉というところ、やっぱり畜生の、あさましい恋情がこもっていて、はかなく、悲しいのである。底の底に、何か凄《すご》い、この世のものでない恐ろしさが感じられるのである。むかし、江戸深川の旗本の妻女が、若くして死んだ。女児ひとりをのこしていった。
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