懶惰の歌留多
太宰治

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)怠惰《たいだ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)感冒|除《よ》けの黒いマスクを

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)い[#「い」はゴシック体]、
−−

 私の数ある悪徳の中で、最も顕著の悪徳は、怠惰《たいだ》である。これは、もう、疑いをいれない。よほどのものである。こと、怠惰に関してだけは、私は、ほんものである。まさか、それを自慢しているわけではない。ほとほと、自分でも呆《あき》れている。私の、これは、最大欠陥である。たしかに、恥ずべき、欠陥である。
 怠惰ほど、いろいろ言い抜けのできる悪徳も、少い。臥竜《がりょう》。おれは、考えることをしている。ひるあんどん。面壁九年。さらに想を練り、案を構え。雌伏《しふく》。賢者のまさに動かんとするや、必ず愚色あり。熟慮。潔癖。凝り性。おれの苦しさ、わからんかね。仙脱。無慾。世が世なら、なあ。沈黙は金。塵事《じんじ》うるさく。隅の親石《おやいし》。機未だ熟さず。出る杭《くい》うたれる。寝ていて転ぶうれいなし。無縫天衣
次へ
全28ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング