いほど白っぽかった。竜は頬のあからむほど嬉しくなった。兄に肩をたたいて貰ったのが有難かったのだ。いつもせめて、これぐらいにでも打ち解けて呉《く》れるといいが、と果敢《はか》なくも願うのだった。
 訪ねる人は不在であった。

 兄はこう言った。「小説を、くだらないとは思わぬ。おれには、ただ少しまだるっこいだけである。たった一行の真実を言いたいばかりに百頁の雰囲気をこしらえている」私は言い憎そうに、考え考えしながら答えた。「ほんとうに、言葉は短いほどよい。それだけで、信じさせることができるならば」
 また兄は、自殺をいい気なものとして嫌った。けれども私は、自殺を処世術みたいな打算的なものとして考えていた矢先であったから、兄のこの言葉を意外に感じた。

 白状し給え。え? 誰の真似なの?

 水《みず》到《いた》りて渠《きょ》成《な》る。

 彼は十九歳の冬、「哀蚊《あわれが》」という短篇を書いた。それは、よい作品であった。同時に、それは彼の生涯の渾沌《こんとん》を解くだいじな鍵《かぎ》となった。形式には、「雛《ひな》」の影響が認められた。けれども心は、彼のものであった。原文のまま。
 おか
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