りで一字一字押し印した日記の本文から、読者と共に、ゆっくり読みすすめる。本文は、すべて平仮名のみにて、甚だ読みにくいゆえ、私は独断で、適度の漢字まじりにする。盲人の哀しい匂いを消さぬ程度に。

     葛原勾当日記。天保八酉年。

[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
○正月一日。同よめる。
  たちかゑる。としのはしめは。なにとなく。しつがこころも。あらたまりぬる。
  山うば。琴にて。五へん。
○同二日。ゑちごじし。琴にて。十二へん。
  おふへ村、ちよ美、八つときに、きたる。あづまじし。さみせんと合はせたること、そのかずをしらず。
  おもうとち。しらべてあそぶ。いとたけの。かずにひかれて。けふもくらしつ。
  ゑちごじし。同五へん。
○同三日。なにごともなく。
○同四日。けいこ、はじめ。
  おせん。琴。きぬた。
  あぶらやのおせつ。琴。さよかぐら。
  とみよしや、おぬゐ。琴。うすごろも。
  おりやう。琴。ゆきのあした。
  すみ寿。琴。さくらつくし。
  おあそ。琴。きりつぼ。
  おけふ。琴。こむらさき。
  おのみちや、こわさ。さみせん。四きのながめ。
 
前へ 次へ
全23ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング