は僕たちも、あなた一人をあてにして、さっきからここでお待ちしていたのです。きっとあなたも招待されていると思いましたから。」
「いや、そんなにあてにされると僕も少し困るのだが。」
 私たち三人は、力無く笑った。
 先生は、いつも、離れのほうにいらっしゃる。離れは、庭に面した六畳間とそれに続く三畳間と、二間あって、その二間を先生がもっぱら独占して居られる。御家族の方たちは、みんな母屋のほうにいらっしゃって、私たちのために時たま、番茶や、かぼちゃの煮たのなどを持ち運んで来られる他は、めったに顔をお出しなさらぬ。
 黄村先生は、その日、庭に面した六畳間にふんどし一つのお姿で寝ころび、本を読んで居られた。おそるおそる縁先に歩み寄る私たち三人を見つけて、むっくり起き上り、
「やあ、来たか。暑いじゃないか。あがり給え。着ているものを脱いで、はだかになると涼しいよ。」茶会も何もお忘れになっているようにさえ見えた。
 けれども私たちは油断をしない。先生の御胸中にどのような計略があるのかわかったものでない。私たちは縁先に立ち並び、無言でうやうやしくお辞儀をした。先生は一瞬けげんな顔をなさったようだが、私た
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