不審庵
太宰治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)候《そうろう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)孫左衛門殿|逝去《せいきょ》の後は、

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)※[#「にんべん+總のつくり」、389−10]
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 拝啓。暑中の御見舞いを兼ね、いささか老生日頃の愚衷など可申述《もうしのぶべく》候《そうろう》。老生すこしく思うところ有之《これあり》、近来ふたたび茶道の稽古にふけり居り候。ふたたび、とは、唐突にしていかにも虚飾の言の如く思召《おぼしめ》し、れいの御賢明の苦笑など漏し給わんと察せられ候も、何をか隠し申すべき、われ幼少の頃より茶道を好み、実父孫左衛門殿より手ほどきを受け、この道を伝授せらるる事数年に及び申候えども、悲しい哉《かな》、わが性鈍にしてその真趣を究《きわむ》る能《あた》わず、しかのみならず、わが一挙手一投足はなはだ粗野にして見苦しく、われも実父も共に呆《あき》れ、孫左衛門殿|逝去《せいきょ》の後は、われその道を好むと雖《いえど》も指南を乞うべき方便を知らず、なおまた身辺に世俗の雑
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