でれ甘えて恐悦《きょうえつ》がっているような詩人を、自分は、底知れぬほど軽蔑しています。卑怯であると思う。横着であると思う。作品に依らずに、その人物に依ってひとに尊敬せられ愛されようとさまざまに心をくだいて工夫している作家は古来たくさんあったようだが、例外なく狡猾《こうかつ》な、なまけものであります。極端な、ヒステリックな虚栄家であります。作品を発表するという事は、恥を掻く事であります。神に告白する事であります。そうして、もっと重大なことは、その告白に依って神からゆるされるのでは無くて、神の罰を受ける事であります。自分には、いつも作品だけが問題です。作家の人間的魅力などというものは、てんで信じて居りません。人間は、誰でも、くだらなくて卑しいものだと思っています。作品だけが救いであります。仕事をするより他はありません。君の手紙を読むと、君は此頃《このごろ》ひどく堕落しているという事が、はっきりわかります。いい加減であります。君はまさしく安易な逃げ路《みち》を捜してちょろちょろ走り廻っている鼬《いたち》のようです。実に醜い。君は作品の誠実を、人間の誠実と置き換えようとしています。作家で無く
前へ
次へ
全70ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング