風の便り
太宰治
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)卑下《ひげ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)文章|倶楽部《クラブ》の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から3字上げ]木戸一郎
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拝啓。
突然にて、おゆるし下さい。私の名前を、ご存じでしょうか。聞いた事があるような名前だ、くらいには、ご存じの事と思います。十年一日の如く、まずしい小説ばかりを書いている男であります。と言っても、決して、ことさらに卑下《ひげ》しているわけではございません。私も、既に四十ちかくに成りますが、未だ一つも自身に納得の行くような、安心の作品を書いて居りませんし、また私には学問もないし、それに、謂《い》わば口重く舌重い、無器用な田舎者《いなかもの》でありますから、濶達《かったつ》な表現の才能に恵まれている筈《はず》もございません。それに加えて、生来の臆病者でありますから、文壇の人たちとの交際も、ほとんど、ございませんし、それこそ、あの古い感傷の歌のとおりに、友みなのわれより偉く見える日は、花を買い来て妻と楽しんでいるよう
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