い小豆《あずき》色の光が、樹々の梢《こずえ》を血なま臭く染める。陰惨、酸鼻《さんび》の気配に近い。
鶴は、厠《かわや》の窓から秋のドオウンの凄《すご》さを見て、胸が張り裂けそうになり、亡者のように顔色を失い、ふらふら部屋へ帰り、口をあけて眠りこけているスズメの枕元にあぐらをかき、ゆうべのウイスキイの残りを立てつづけにあおる。
金はまだある。
酔いが発して来て、蒲団《ふとん》にもぐり込み、スズメを抱く。寝ながら、またウイスキイをあおる。とろとろと浅く眠る。眼がさめる。にっちもさっちも行かない自分のいまの身の上が、いやにハッキリ自覚せられ、額《ひたい》に油汗がわいて出て来て、悶《もだ》え、スズメにさらにウイスキイを一本買わせる。飲む。抱く。とろとろ眠る。眼がさめると、また飲む。
やがて夕方、ウイスキイを一口飲みかけても吐きそうになり、
「帰る。」
と、苦しい息の下から一ことそう言うのさえやっとで、何か冗談を言おうと思っても、すぐ吐きそうになり、黙って這《は》うようにして衣服を取りまとめ、スズメに手伝わせて、どうやら身なりを整え、絶えず吐き気とたたかいながら、つまずき、よろめき、日
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