犯人
太宰治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)陳腐《ちんぷ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)全身|鳥肌《とりはだ》の立つ思いがする。

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから7字下げ]
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[#ここから7字下げ]
「僕はあなたを愛しています」とブールミンは言った「心から、あなたを、愛しています」
 マリヤ・ガヴリーロヴナは、さっと顔をあからめて、いよいよ深くうなだれた。
[#地から1字上げ]――プウシキン(吹雪)
[#ここで字下げ終わり]



 なんという平凡。わかい男女の恋の会話は、いや、案外おとなどうしの恋の会話も、はたで聞いては、その陳腐《ちんぷ》、きざったらしさに全身|鳥肌《とりはだ》の立つ思いがする。
 けれども、これは、笑ってばかりもすまされぬ。おそろしい事件が起った。
 同じ会社に勤めている若い男と若い女である。男は二十六歳、鶴田《つるた》慶助。同僚は、鶴、鶴、と呼んでいる。女は、二十一歳、小森ひで、同僚は、森ちゃん、と呼んでいる。鶴と、森ちゃんとは、好き合っている。
 晩秋の或
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