と、いうような気持らしい。そうして、すぐまた他の事に就いて妻とひそひそ相談をはじめる。
「それじゃまあ勝手にするさ。」と私も笑いながら言い、「どうも、おれは信用が無いので困る。」
「そりゃそうよ。」と妻は突然、あらたまったような口調で言い、「父さんは、いつでも本気なのか冗談なのかわからないような非常識な事ばかりおっしゃるんだもの。信用の無いのは当り前よ。こんなになっても、きっとお酒の事ばかり考えていらっしゃるんだから。」
「まさか、それほどでもなかろう。」
「でも、今晩だって、お酒があったら、お飲みになるでしょう。」
「そりゃ、飲む、かも知れない。」
とにかく、このお家にもこれ以上ご厄介《やっかい》をかけてはいけない、明日、また他の家を捜そうという事に二人の相談はまとまった様子で、翌《あく》る日、れいの穴から掘り出した品々を大八車《だいはちぐるま》に積んで、妹のべつの知人のところへ行った。そこのお家は、かなり広く、五十歳くらいの御主人は、なかなかの人格者のように見受けられた。私たちは奥の十畳間を貸していただく事が出来た。病院も、見つけた。
県立病院が焼けて、それが郊外の或る焼け残っ
前へ
次へ
全20ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング