世界で対抗したのだから面白いのだよ。」
「でも、やっぱり利休は秀吉の家来でしょう? まあ、茶坊主でしょう? 勝負はもう、ついているじゃありませんか。」私は、やはり笑いながら言う。
けれども兄は少しも笑わず、
「太閤と利休の関係は、そんなものじゃないよ。利休は、ほとんど諸侯をしのぐ実力を持っていたし、また、当時のまあインテリ大名とでもいうべきものは、無学の太閤より風雅の利休を慕っていたのだ。だから太閤も、やきもきせざるを得なかったのだ。」
男ってへんなものだ、と私は黙って草をむしりながら考える。大政治家の秀吉が、風流の点で利休に負けたって、笑ってすませないものかしら。男というものは、そんなに、何もかも勝ちつくさなければ気がすまぬものかしら。また利休だって、自分の奉公している主人に対して、何もそう一本まいらせなくともいいじゃないか。どうせ太閤などには、風流の虚無などわかりっこないのだから、飄然《ひょうぜん》と立ち去って芭蕉《ばしょう》などのように旅の生活でもしたら、どんなものだろう。それを、太閤から離れるでもなく、またその権力をまんざらきらいでもないらしく、いつも太閤の身辺にいて、そう
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