庭
太宰治
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)甲府《こうふ》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)豪放|絢爛《けんらん》たる建築美術を
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東京の家は爆弾でこわされ、甲府《こうふ》市の妻の実家に移転したが、この家が、こんどは焼夷弾《しょういだん》でまるやけになったので、私と妻と五歳の女児と二歳の男児と四人が、津軽《つがる》の私の生れた家に行かざるを得なくなった。津軽の生家では父も母も既になくなり、私より十以上も年上の長兄が家を守っている。そんなに、二度も罹災《りさい》する前に、もっと早く故郷へ行っておればよかったのにと仰言《おっしゃ》るお方もあるかも知れないが、私は、どうも、二十代に於いて肉親たちのつらよごしの行為をさまざまして来たので、いまさら図々《ずうずう》しく長兄の厄介《やっかい》になりに行けない状態であったのである。しかし、二度も罹災して二人の幼児をかかえ、もうどこにも行くところが無くなったので、まあ、当ってくだけろという気持で、ヨロシクタノムという電報を発し、七月の末に甲府を立った。そうして途中かなりの難儀《なんぎ
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