、私はもう、歩けないくらいに酔っていた。
「とめてくれ。うちまで歩いて行けそうもないんだ。このままで、寝ちまうからね。たのむよ。」
 私は、こたつに足をつっこみ、二重廻《にじゅうまわ》しを着たままで寝た。
 夜中に、ふと眼がさめた。まっくらである。数秒間、私は自分のうちで寝ているような気がしていた。足を少しうごかして、自分が足袋をはいているままで寝ているのに気附《きづ》いてはっとした。しまった! いけねえ!
 ああ、このような経験を、私はこれまで、何百回、何千回、くりかえした事か。
 私は、唸《うな》った。
「お寒くありません?」
 と、キクちゃんが、くらやみの中で言った。
 私と直角に、こたつに足を突込んで寝ているようである。
「いや、寒くない。」
 私は上半身を起して、
「窓から小便してもいいかね。」
 と言った。
「かまいませんわ。そのほうが簡単でいいわ。」
「キクちゃんも、時々やるんじゃねえか。」
 私は立上って、電燈《でんとう》のスイッチをひねった。つかない。
「停電ですの。」
 とキクちゃんが小声で言った。
 私は手さぐりで、そろそろ窓のほうに行き、キクちゃんのからだに躓《
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