そう? どうでした? すこうし、キザね。そうでしょう?」
「まあ、でも、あんなところさ。そりゃもう、僕《ぼく》にくらべたら、どんな男でも、あほらしく見えるんだからね。我慢しな。」
「そりゃ、そうね。」
娘さんは、その青年とあっさり結婚する気でいるようであった。
先夜、私は大酒を飲んだ。いや、大酒を飲むのは、毎夜の事であって、なにも珍らしい事ではないけれども、その日、仕事場からの帰りに、駅のところで久し振りの友人と逢い、さっそく私のなじみのおでんやに案内して大いに飲み、そろそろ酒が苦痛になりかけて来た時に、雑誌社の編輯者《へんしゅうしゃ》が、たぶんここだろうと思った、と言ってウイスキー持参であらわれ、その編輯者の相手をしてまたそのウイスキーを一本飲みつくして、こりゃもう吐くのではなかろうか、どうなるのだろう、と自分ながら、そらおそろしくなって来て、さすがにもう、このへんでよそうと思っても、こんどは友人が、席をあらためて僕にこれからおごらせてくれ、と言い出し、電車に乗って、その友人のなじみの小料理屋にひっぱって行かれ、そこでまた日本酒を飲み、やっとその友人、編輯者の両人とわかれた時には
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