。がぶ、がぶ呑んだのである。雨のため、部屋の窓が全部しめ切られて在るので、蒸し暑く、私は酒が全身に廻って、ふうふう言い、私の顔は、茹蛸《ゆでだこ》のように見えたであろう。いけない。こんな工合では、いよいよ故郷の評判が悪くなる。私のこんな情ない有様を、母や兄が見たなら、どんなに残念がることか、地団駄踏んで口惜しがることだろう、としきりに悲しく思っても、もはや私は、意志のブレーキを失っている。ただ、酒ばかり呑むのである。私の態度は、稚拙《ちせつ》であった。三十一にもなって、少しも可愛げが無くなっているのに、それでも、でれでれ甘えて、醜怪の極である。酔いが進むに連れて、ひとりで悲愴がって、この会合全体を否定してみたり、きざに異端を誇示しようと企んだり、或いは思い直して、いやいやここに列席している人たちは、みな一廉《ひとかど》の人物なのだ、優しく謙虚な芸術家なのだ、誠実に、苦労して生きて来た人たちばかりだ。卑劣なのは、僕だけだ。嗟《ああ》、僕は臆病者だ、女の腐ったみたいなものだ、そんなに、この会がいやならば、なぜ袴をはいて出席したりなどするのだ、お前のさもしい焦躁は、見え透いているぞ、と自分を
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