いろいろ特配をもらったろう。こないだ罹災者に毛布の配給があったようだが、俺にくれ」
 私はまごついた。彼の真意を解するに苦しんだ。しかし、彼は、まんざら冗談でも無いらしく、しつこくそれを言う。
「くれよ。俺は、ジャンパーを作るのだ。わりにいい毛布らしいじゃないか。くれよ。どこにあるのだ。俺は帰りに持って行くぞ。これは、俺の流儀でな。ほしいものがあったら、これ持って行く! と言って、もらってしまう。そのかわり、お前が俺のところへ来たら、お前もそうするとよい。俺は平気だ。何を持って行ったって、かまわないよ。俺は、そんな流儀の男だ。礼儀だの何だの、めんどうくさい事はきらいなのだ。いいか、毛布は、もらって行くぞ」
 そのたった一枚の毛布は、女房が宝物のように大事にしているものなのだ。所謂「立派な」家にいま住んでいるから、私たちには何でもあり余っているように、彼に思われているのだろうか。私たちは、不相応の大きい貝殻の中に住んでいるヤドカリのようなもので、すぽりと貝殻から抜け出ると、丸裸のあわれな虫で、夫婦と二人の子供は、特配の毛布と蚊帳《かや》をかかえて、うろうろ戸外を這《は》いまわらなければな
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