思うなら、橋のそばの鍛冶屋《かじや》の笠井三郎のところへ行って聞いて見ろ。あの男は、俺の事なら何でも知っている。鉄砲撃ちの平田と言えば、この地方の若い者は、絶対服従だ。そうだ、あしたの晩、おい文学者、俺と一緒に八幡様の宵宮《よみや》に行ってみないか。俺が誘いに来る。若い者たちの大喧嘩があるかも知れないのだ。どうもなあ、不穏な形勢なんだ。そこへ俺が飛び込んで行って、待った! と言うのだ。ちょうど幡随院《ばんずいいん》の長兵衛というところだ。俺はもう命も何も惜しくねえ。俺が死んだって、俺には財産があるんだからな、かかや子供は困る事がない。おい、文学者。あしたの晩は、ぜひ、一緒に行こうじゃないか。俺の偉いところを見せてやる。毎日、こんな奥の部屋でまごまごしていたって、いい文学は出来ない。大いに経験をひろくしなければいけない。いったい、お前は、どういうものを書いているのだ。うふふ。芸者小説か。お前は苦労を知らないから駄目だ。俺はもう、かかを三度とりかえた。あとのかかほど、可愛いもんだ。お前は、どうだ。お前だって、二人か! 三人か! 奥さん、どうです、修治は、あなたを可愛がるか? 俺は、これでも
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