になって、大騒ぎでした。」
「妹さんも、あるのですか。」私のよろこびは、いよいよ高い。
「ええ、私と四つちがうのですから、二十一です。」
「すると、君は、」私は、急に頬がほてって来たので、あわてて別なことを言った。「二十五ですね。私とは、六つちがうわけだ。どこかへ、おつとめですか。」
「そこのデパアトです。」
 眼をあげると、大丸《だいまる》デパアトの五階建の窓窓がきらきら華やかに灯っている。もう、この辺は、桜町である。甲府で一ばん賑《にぎ》やかな通りで、土地の人は、甲府銀座と呼んでいる。東京の道玄坂を小綺麗《こぎれい》に整頓《せいとん》したような街である。路《みち》の両側をぞろぞろ流れて通る人たちも、のんきそうで、そうして、どこかハイカラである。植木の露店には、もう躑躅《つつじ》が出ている。
 デパアトに沿って右に曲折すると、柳町である。ここは、ひっそりしている。けれども両側の家家は、すべて黒ずんだ老舗《しにせ》である。甲府では、最も品格の高い街であろう。
「デパアトは、いまいそがしいでしょう。景気がいいのだそうですね。」
「とても、たいへんです。こないだも、一日仕入が早かったばかり
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