です。僕が十三で、ちょうど小学校を卒業したとしでした。それから五年経って、僕が中学校を卒業する直前に、父は狂《くる》い死《じに》しました。母が死んでから、もう、元気がないようでしたが、それから、すこし、まあ遊びはじめたのでしょうね、店は可成《かなり》大きかったのですが、衰運の一途でした。あのときは全国的に呉服屋が、いけないようでした。いろいろ苦しいこともあったのでしょう。いけない死にかたをしました、井戸に飛びこみました。世間には、心臓|痲痺《まひ》ということにしてありますけれど。」
わるびれる様子もなく、そうかといって、露悪症みたいな、荒《すさ》んだやけくその言いかたでもなく、無心に事実を簡潔に述べている態度である。私は、かれの言葉に、爽快《そうかい》なものを感じたほどなのであるが、けれども、ひとの家の細いことにまで触れるのは、私は不安で、いやだから、すぐに話題をそらした。
「つるは、いくつでなくなったのですか?」
「母ですか。母は、三十六でなくなりました。立派な母でした。死ぬる直前まで、あなたの名前を言っていました。」
そうして、会話がとぎれてしまった。私が黙っていると、青年も黙
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