《しわ》をのばして、傘《かさ》は無いか、足袋は無いか、押入れに首をつっ込んで、がらくたを引出し、浴衣《ゆかた》に陣羽織という姿の者もあり、単衣《ひとえ》を五枚重ねて着て頸《くび》に古綿を巻きつけた風邪気味と称する者もあり、女房の小袖《こそで》を裏返しに着て袖の形をごまかそうと腕まくりの姿の者もあり、半襦絆《はんじゅばん》に馬乗袴《うまのりばかま》、それに縫紋の夏羽織という姿もあり、裾《すそ》から綿のはみ出たどてらを尻端折《しりばしょり》して毛臑《けずね》丸出しという姿もあり、ひとりとしてまともな服装の者は無かったが、流石《さすが》に武士の附《つ》き合いは格別、原田の家に集って、互いの服装に就いて笑ったりなんかする者は無く、いかめしく挨拶《あいさつ》を交し、座が定ってから、浴衣に陣羽織の山崎老がやおら進み出て主人の原田に、今宵の客を代表して鷹揚《おうよう》に謝辞を述べ、原田も紙衣の破れた袖口を気にしながら、
「これは御一同、ようこそ。大みそかをよそにして雪見酒も一興かと存じ、ごぶさたのお詫《わ》びも兼ね、今夕お招き致しましたところ、さっそくおいで下さって、うれしく思います。どうか、ごゆる
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