て、ひとりで大笑いすれば、遊び友達はいまは全く薄気味わるくなり、誰《だれ》も才兵衛と遊ぶ者がなくなって、才兵衛はひとり裏山に登って杉《すぎ》の大木を引抜き、牛よりも大きい岩を崖《がけ》の上から蹴落《けおと》して、つまらなそうにして遊んでいた。十五、六の時にはもう頬《ほお》に髯《ひげ》も生えて三十くらいに見え、へんに重々しく分別ありげな面構《つらがま》えをして、すこしも可愛《かわい》いところがなく、その頃、讃岐に角力《すもう》がはやり、大関には天竺仁太夫《てんじくにだゆう》つづいて鬼石、黒駒《くろこま》、大浪《おおなみ》、いかずち、白滝、青鮫《あおざめ》など、いずれも一癖ありげな名前をつけて、里の牛飼、山家《やまが》の柴男《しばおとこ》、または上方《かみがた》から落ちて来た本職の角力取りなど、四十八手《しじゅうはって》に皮をすりむき骨を砕き、無用の大怪我《おおけが》ばかりして、またこの道にも特別の興ありと見えて、やめられず椴子《どんす》のまわしなどして時々ゆるんでまわしがずり落ちてもにこりとも笑わず、上手《うわて》がどうしたの下手《したて》がどうしたの足癖がどうしたのと、何の事やらこの世
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