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   大力

 むかし讃岐《さぬき》の国、高松に丸亀《まるがめ》屋とて両替屋を営み四国に名高い歴々の大長者、その一子に才兵衛《さいべえ》とて生れ落ちた時から骨太く眼玉《めだま》はぎょろりとしてただならぬ風貌《ふうぼう》の男児があったが、三歳にして手足の筋骨いやに節くれだち、無心に物差しを振り上げ飼猫《かいねこ》の頭をこつんと打ったら、猫は声も立てずに絶命し、乳母は驚き猫の死骸《しがい》を取上げて見たら、その頭の骨が微塵《みじん》に打ち砕かれているので、ぞっとして、おひまを乞《こ》い、六歳の時にはもう近所の子供たちの餓鬼大将で、裏の草原につながれてある子牛を抱きすくめて頭の上に載せその辺を歩きまわって見せて、遊び仲間を戦慄《せんりつ》させ、それから毎日のように、その子牛をおもちゃにして遊んで、次第に牛は大きくなっても、はじめからかつぎ慣れているものだから何の仔細《しさい》もなく四肢《しし》をつかまえて眼より高く差し上げ、いよいよ牛は大きくなり、才兵衛九つになった頃《ころ》には、その牛も、ゆったりと車を引くほどの大黒牛になったが、それでも才兵衛はおそれず抱きかかえ
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