って、書附けを差出し、寝ているのを引起して、詰め寄って何やら小声で談判ひとしきりの後、財布の小粒銀ありったけ、それに玉虫色のお羽織、白柄《しらつか》の脇差、着物までも脱がせて、若衆二人それぞれ風呂敷《ふろしき》に包んで、
「あとのお勘定は正月五日までに。」と言い捨て、いそがしそうに立ち去った。
粋人は、下着一枚の奇妙な恰好《かっこう》で、気味わるくにやりと笑い、
「どうもねえ、友人から泣きつかれて、判を押してやったが、その友人が破産したとやら、こちらまで、とんだ迷惑。金を貸すとも、判は押すな、とはここのところだ。とかく、大晦日には、思わぬ事がしゅったい致す。この姿では、外へも出られぬ。暗くなるまで、ここで一眠りさせていただきましょう。」と、これはまたつらい狸寝入《たぬきねい》り、陰陽、陰陽と念じて、わが家の女房と全く同様の、死んだ振りの形となった。
台所では、婆と蕾が、「馬鹿というのは、まだ少し脈のある人の事」と話合って大笑いである。とかく昔の浪花《なにわ》あたり、このような粋人とおそろしい茶屋が多かったと、その昔にはやはり浪花の粋人のひとりであった古老の述懐。
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