呆《あき》れるほど永く踊りつづけている者もあり、また、さいぜんから襖《ふすま》によりかかって、顔面|蒼白《そうはく》、眼《め》を血走らせて一座を無言で睨《にら》み、近くに坐《すわ》っている男たちを薄気味悪がらせて、やがて、すっくと立ち上ったので、すわ喧嘩《けんか》と驚き制止しかかれば、男は、ううと呻《うめ》いて廊下に走り出て庭先へ、げえと吐いた。酒の席は、昔も今も同じ事なり、しまいには、何が何やら、ただわあとなって、骨の無い動物の如く、互いに背負われるやら抱かれるやら、羽織を落し、扇子を忘れ、草履《ぞうり》をはきちがえて、いや、めでたい、めでたい、とうわごとみたいに言いながらめいめいの家へ帰り、あとには亭主《ていしゅ》ひとり、大風の跡の荒野に伏せる狼《おおかみ》の形で大鼾《おおいびき》で寝て、女房は呆然《ぼうぜん》と部屋のまんなかに坐り、とにかく後片附けは明日と定め、神棚の桝を見上げては、うれしさ胸にこみ上げ、それにつけても戸じまりは大事と立って、家中の戸をしめて念いりに錠《じょう》をおろし、召使い達をさきに寝かせて、それから亭主の徳兵衛を静かにゆり起し、そんな大鼾で楽寝をしている場合
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