え、さもなくば、えびす大黒もこの金横領のとがにんとして縄《なわ》を打ち、川へ流してしまいます、と言えば、また大笑いになり、職人仲間の情愛はまた格別、それより持参の酒肴にて年忘れの宴、徳兵衛はうれしく、意味も無く部屋中をうろうろ歩きまわり重箱を蹴飛《けと》ばし、いよいよ恐縮して、あちらこちらに矢鱈《やたら》にお辞儀して廻《まわ》り、生れてはじめて二合以上の酒を飲ませてもらい、とうとう酔い泣きをはじめ、他の職人たちも、人を救ったというしびれるほどの興奮から、ふだん一滴も酒を口にせぬ人まで、ぐいぐいと飲み酒乱の傾向を暴露して、この酒は元来わしが持参したものだ、飲まなければ損だ、などとまことに興覚めないやしい事まで口走り、いきな男は、それを相手にせず、からだを前後左右にゆすぶって小唄《こうた》をうたい、鬚面《ひげづら》の男は、声をひそめて天下国家の行末を憂《うれ》い、また隅《すみ》の小男は、大声でおのれの織物の腕前を誇り、他のやつは皆へたくそ也《なり》とののしり、また、頬被《ほおかぶ》りして壁塗り踊りと称するへんてつも無い踊りを、誰《だれ》も見ていないのに、いやに緊張して口をひきしめいつまでも
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