いい髪をもったいない、ちゃんと綺麗《きれい》に結って、おちめを人に見せないところが女房の働き。正月の塩鮭《しおざけ》もわしの家で三本買って置いたから、一本すぐにとどけさせます。笑う門には福が来る。どうも、この家は陰気でいけねえ。さあ、雨戸をみんなあけて、ことしの家中の塵芥《ちりあくた》をさっぱりと掃き出して、のんきに福の神の御入来を待つがよい。万事はわしたちが引受けました。」と景気のいい事ばかり言い、それから近所の職人仲間と相談の上、われひと共にいそがしき十二月二十六日の夜、仲間十人おのおの金子《きんす》十両と酒肴《しゅこう》を携え、徳兵衛の家を訪れ、一升|桝《ます》を出させて、それに順々に十両ずつばらりばらりと投げ入れて百両、顔役のひとりは福の神の如《ごと》く陽気に笑い、徳兵衛さん、ここに百両あります、これをもとでに千両かせいでごらんなさい、と差し出せば、またひとりの顔役は、もっともらしい顔をして桝を神棚《かみだな》にあげ、ぱんぱんと拍手《かしわで》を打ち、えびす大黒にお願い申す、この百両を見覚え置き、利に利を生ませて来年の暮には百倍千倍にしてまたこの家に立ち戻《もど》らせ給《たま》
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