、ちらと見えた女の姿に足をとどめ、手にしていた扇子《せんす》をはたと落して、小山の動くみたいに肩で烈《はげ》しく溜息をつき、シばらスい、と思わず東北|訛《なまり》をまる出しにして呻き、なおもその、花盛りの梨《なし》の木の下でその弟とも見える上品な男の子と手鞠《てまり》をついて遊んでいる若い娘の姿に、阿呆《あほう》の如く口をあいて見とれていた。翌《あく》る日、髭そうろうの大尽は、かの五人の手下に言いふくめて、金銀|綾錦《あやにしき》のたぐいの重宝をおびただしく持参させ、かの土塀の家に遣《つかわ》し、お姫様を是非とも貰《もら》い受けたしと頗《すこぶ》る唐突ながら強硬の談判を開始させた。その家の老主人は、いささか由緒《ゆいしょ》のある公卿《くげ》の血筋を受けて、むかしはなかなか羽振りのよかった人であるが、名誉心が強すぎて、なおその上の出世を望み、附合いを派手にして日夜顕官に饗応《きょうおう》し、かえって馬鹿にされておまけに財産をことごとく失い、何もかも駄目《だめ》になり、いまは崩れる土塀を支える力も無く中風の気味さえ現われて来て、わななく手でさてもこの世は夢まぼろしなどとへたくその和歌を鼻紙
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