東《あずま》の田舎|大尽《だいじん》の如《ごと》くすべて鷹揚《おうよう》に最上等の宿舎に泊り、毎日のんきに京の見物、日頃《ひごろ》けちくさくため込んだのも今日この日の為《ため》らしく、惜しげも無く金銀をまき散らし、やがてもの言わぬ花にも厭《あ》きて、島原《しまばら》に繰り込み、京で評判の名妓《めいぎ》をきら星の如く大勢ならべて眺《なが》め、好色の手下の一人は、うむと呻《うめ》いて口に泡《あわ》を噴きどうとうしろに倒れてそれお水それお薬、お袴をおぬぎなさったら、などと大騒ぎになったのも無理からぬほど、まばゆく見事な景趣ではあったが、大尽は物憂《ものう》そうな顔して溜息をつき、都にも美人は少く候、と呟く。広い都も、人の噂《うわさ》のために狭く、この山賊の奢《おご》りは逸早《いちはや》く京中に拡《ひろ》まり、髭そうろうの大尽と言われて、路《みち》で逢《あ》う人ことごとくがこの男に会釈《えしゃく》するようになったが、この男一向に浮かぬ顔して、やがて島原の遊びにもどうやら厭きた様子で、毎日ぶらりぶらりと手下を引連れて都大路を歩きまわり、或る日、古い大きな家の崩れかかった土塀《どべい》のわれ目から
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