知れぬ大長者になり、立派な口髭《くちひげ》を生《は》やして挙措《きょそ》動作も重々しく、山賊には附《つ》き物《もの》の熊《くま》の毛皮などは着ないで、紬《つむぎ》の着物に紋附《もんつ》きのお羽織をひっかけ、謡曲なども少したしなみ、そのせいか言葉つきも東北の方言と違っていて、何々にて候《そうろう》、などといかめしく言い、女ぎらいか未《いま》だに独身、酒は飲むが、女はてんで眼中に無い様子で、かつて一度も好色の素振りを見せた事は無く、たまに手下の者が里から女をさらって来たりすると眉《まゆ》をひそめ、いやしき女にたわむれるは男子の恥辱に候、と言い、ただちに女を里に返させ、手下の者たちが、親分の女ぎらいは玉に疵《きず》だ、と無遠慮に批評するのを聞いてにやりと笑い、仙台には美人が少く候、と呟《つぶや》いて何やら溜息《ためいき》をつき、山賊に似合わぬ高邁《こうまい》の趣味を持っている男のようにも見えた。この男、或《あ》る年の春、容貌《ようぼう》見にくからぬ手下五人に命じて熊の毛皮をぬがせ頬被《ほおかぶ》りを禁じて紋服を着せ仙台平《せんだいひら》の袴《はかま》をはかせ、これを引連れて都にのぼり、自分は
前へ
次へ
全209ページ中128ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング