の表裏に書きしたためて、その日その日の憂《う》さを晴らしている有様だったので、この突然の申込みにはじめは少からず面くらったものの、さて、眼前に山と積まれた金銀財宝を眺めて、これだけあれば、ふたたび大官に饗応し、華やかに世に浮び上る事が出来るぞと、れいの虚栄心がむらむらと起り、髭そうろうの大尽といえば、いま此《こ》の京でも評判の男、なんでも遠いあずまの大金持ちの若旦那《わかだんな》だとかいう話だ、田舎者だって何だって金持ちなら結構、この縁談は悪くない、と貧すれば貪《どん》すの例にもれず少からず心が動いて、その日はお使者に大いに愛嬌《あいきょう》を振りまき、確答は後日という事にして、とにかくきょうのお土産の御礼にそちらの御主人の宿舎へ明日参上致します、という返辞。手下たちは、しめた、あの工合《ぐあ》いではもう大丈夫、と帰る途々《みちみち》首肯《うなず》き合い、主人にその様子を言上すれば、山賊の統領はにやりと凄《すご》く笑い、案外もろく候、と言った。その翌る日、土塀の老主人は、烏帽子《えぼし》などかぶってひどくもったいぶった服装で山賊の京の宿舎を訪ね、それこそほんものの候言葉で、昨日のお礼を
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