を取出す事のないように、丸裸になって捜し出せ、銭九文のこらず捜し出すまでは雨の日も風の日も一日も休む事なく河原におもむき、下役人の監視のもとに川床を残りくまなく掘り返せ、と万雷一時に落ちるが如き大声で言い渡した。真面目な人が怒ると、こわいものである。
 その日から浅田は、下役人の厳重な監視のもとに丸裸となって川を捜した。十日目に一文、二十日|経《た》って一文、川の柳の葉は一枚残らず散り落ち、川の水は枯れて蕭々《しょうしょう》たる冬の河原となり、浅田は黙々として鍬《くわ》をふるって砂利を掘り起し、出て来るものは銭にはあらで、割れ鍋《なべ》、古釘《ふるくぎ》、欠《か》け茶碗《ぢゃわん》、それら廃品がむなしく河原に山と積まれ、心得顔した婆がよちよち河原へ降りて来て、わしはいつぞやこの辺に、かんざしを一つ落したが、それはまだ出て来ませんか、と監視の下役人に尋ね、いつごろ落したのだと聞かれて、はっきりしませんが、わしがお嫁入りして間もなくの事だったから、六、七十年にもなりましょうか、と言って役人に叱られ、滑川もいつしか人に裸川と呼ばれて鎌倉名物の一つに数え上げられるようになった頃、すなわち九十七
前へ 次へ
全209ページ中110ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング