ゃる途中、お寺の前であたしと逢《あ》い、非人に施せといって二文あたしに下さいました。」
「うん、そうであった。忘れていた。」
 青砥は愕然《がくぜん》とした。落した銭は九文でなければならぬ筈であった。九文落して、十一文川底から出て来るとは、奇怪である。青砥だって馬鹿ではない。ひょっとしたら、これはあの浅田とやらいうのっぺりした顔の人足が、何かたくらんだのかも知れぬ、と感附いた。考えてみると、手でさぐるよりも足でさぐったほうが早く見つかるなどというのもふざけた話だ。とにかく明朝、あの浅田とやらいう人足を役所に呼び出し、きびしく糺明《きゅうめい》してやろうと、頗《すこぶ》る面白《おもしろ》くない気持でその夜は寝た。
 詐術《さじゅつ》はかならず露顕するもののようである。さすがの浅田も九文落したのに十一文拾った事に就いて、どうにも弁明の仕様が無かった。青砥は烈火の如く怒り、お上をいつわる不届者め、八つ裂きにも致したいところなれども、川に落した九文の銭の行末も気がかりゆえ、まずあれをお前ひとりで十年でも二十年でも一生かかって捜し出せ、ふたたびあさはかな猿智慧《さるぢえ》を用い、腹掛けなどから銭
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