って岸に向って歩きかけたら、青砥は声をはげまし、
「動くな、動くな。その場を捜せ。たしかにそこだ。私はその場に落したのだ。いま思い出した。たしかにそこだ。さらに八文ある筈だ。落したものは、落した場所にあるにきまっている。それ! 皆の者、銭は三文見つかったぞ。さらに精出して、そこな下郎《げろう》の周囲を捜せ。」とたいへんな騒ぎ方である。
 人足たちはぞろぞろと浅田の身のまわりに集り、
「兄貴はやっぱり勘がいいな。何か、秘伝でもあるのかね。教えてくれよ。おれはもう凍えて死にそうだ。どうしたら、そんなにうまく捜し出せるのか。」と口々に尋ねた。
 浅田はもっともらしい顔をして、
「なあに、秘伝というほどの事でもないが、問題は足の指だよ。」
「足の指?」
「そうさ。おまえたちは、手でさぐるからいけない。おれのように、ほうら、こんな工合に足の指先でさぐると見つかる。」と言いながら妙な腰つきで川底の砂利を踏みにじり、皆がその足元を見つめているすきを狙《ねら》ってまたも自分の腹掛けから二文ばかり取り出して、
「おや?」と呟き、その銭を握った片手を水中に入れて、
「あった!」と叫んだ。
「なに、あったか
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