のお人柄のせいかも知れない。私はあの人たちに対した時には、何か安心なのである。
「変ですね。」先生は、不満そうに口髭《くちひげ》を強くこすりながら言った。「私がそんなばかな事を言うはずが無いやないか?」
「でも、」私は口をとがらせ、「クラス会の時に先生が、」と言いかけたら、
「あ、津田君やな? あいつ、おっちょこちょいや。」と言って笑い出した。
「では、あれは、嘘なんですか。」
「いや、言った。私は、言いました。」と急に講義の時のようなまじめな口調になって、「こんど私たちの学校に、はじめて、清国留学生がひとり来た。この者と共に医学を勉強する事は、小にしては、支那に新しい医学を誕生せしむるためであり、大にしては、両者助け合って西洋医学をいち早く東洋に吸収し、もって世界全体の学術を更に進展せしむるところの好刺戟を作ってやるため、というくらいの意気込みをクラスの幹事たる者は持っていて欲しい、と私はあの時、津田君に言いました。その他の事は、何も言いません。」
「そうですか。」私は、拍子抜けしたみたいな感じで、「戦争中は、第三国人がスパイになる可能性があるとか何とか言って、――」
「何を言ってい
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