屋には朝日が一ぱいに射し込んでいて、先生は、上肢骨《じょうしこつ》やら下肢骨やら頭蓋骨《ずがいこつ》やら、頗《すこぶ》る不気味な人骨の標本どもに取巻かれ、泰然《たいぜん》と新聞を読んで居られた。廻転椅子を少し私のほうにねじ向け、新聞を卓上に置き、
「なんですか。」研究室に於ける先生は、教室の先生よりもずっと優しい。
「あの、第三国人と交際してはいけないのですか。」
「え、なんです?」先生は、関西なまりを丸出しにして問いかえした。
「周さんの事なんです。」私は先生の関西なまりに接して、思わず微笑した。こんどは落ちついて言うことが出来た。「周樹人君と交際してはいけないって、きのう或る人から言われたのですけど。」
「誰ですか。」
「名前は申しません。僕はその人の事を告げ口しに来たのではないんです。ただ、先生がそのようにお言いつけになったという話を聞いたものですから、本当かどうかお伺いにあがっただけなんです。」
藤野先生に対しても私は、周さんに対した時と同じ様に、思っている事が割にすらすら言えた。その理由らしきものに就いては、前に幾度も、くどいくらいに書いたが、しかし、結局は藤野先生や周さん
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