わか仕立ての狂言を上場したりして、全市すこぶる活気|横溢《おういつ》、私たちも医専の新しい制服制帽を身にまとい、何か世界の夜明けを期待するような胸のふくれる思いで、学校のすぐ近くを流れている広瀬川の対岸、伊達《だて》家三代の霊廟《れいびょう》のある瑞鳳殿《ずいほうでん》などにお参りして戦勝の祈願をしたものだ。上級生たちの大半の志望は軍医になっていますぐ出陣する事で、まことに当時の人の心は、単純とでも言おうか、生気|溌剌《はつらつ》たるもので、学生たちは下宿で徹宵《てっしょう》、新兵器の発明に就《つ》いて議論をして、それもいま思うと噴《ふ》き出したくなるような、たとえば旧藩時代の鷹匠《たかじょう》に鷹の訓練をさせ、鷹の背中に爆裂弾をしばりつけて敵の火薬庫の屋根に舞い降りるようにするとか、または、砲丸に唐辛子《とうがらし》をつめ込んで之《これ》を敵陣の真上に於いて破裂させて全軍に目つぶしを喰わせるとか、どうも文明開化の学生にも似つかわしからざる原始的と言いたいくらいの珍妙な発明談に熱中して、そうしてこの唐辛子目つぶし弾の件は、医専の生徒二、三人の連名で、大本営に投書したとかいう話も聞いたが
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