れたように北方の奥地からいきなりこの仙台に出て来た人にとっては、この土地の文明開化も豪華|絢爛《けんらん》たるものに見えて、これに素直に驚歎し、順服するというのは自然の事で、これこそ仙台の開祖政宗公が東北地方全体を圧倒雄視するために用いた政策の狙《ねら》いで、それが伝統的な気風になり、維新後三十七年を経過したいまでも、その内容空疎に多少おどおどしながらやっぱり田舎紳士《いなかしんし》の気取りを捨て切れないでいるのである。しかし、こんな悪口を言っても、自分はこの仙台のまちに特に敵意を抱《いだ》いているというわけでは決してない。地方の、産業の乏しい都会は、たいていこんな悲しい気取りで生きているものだ。これから自分は一生涯の、おそらくは最も重大な時期を、仙台のまちに委《ゆだ》ねてしまうのだから、つい念入りにこのまちの性格に就いて考え、あれこれと不満を並べてみたくなっただけの事で、こんな気風のまちは、学問するにはかえって好適の土地なのかも知れない。事実、このまちへ来てから、自分の学習は順調である。多分、物は希《ま》れなるを以て貴《とうと》しとするからであろう、自分は、この仙台のまちにとって、最
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