の諸国は、支那に於いて鉄道、鉱山などに関する多くの利権を得て、亜米利加《アメリカ》も、かねて東洋に進み出る時機をうかがっていたが、遂にその頃、布哇《ハワイ》を得て、さらに長駆東洋侵略の歩をすすめて西班牙《イスパニヤ》と戦い比律賓《フィリッピン》を取り、そこを足がかりにしてそろそろ支那に対して無気味な干渉を開始していた。もう、支那の独立性も、風前の燈火のように見えて来た。救国の叫びが、国内に充満するのも当然の事のように思われた。しかし、支那にとって不吉の事件が相ついで起った。戊戌《ぼじゅつ》の政変がその一つであり、さらに、その二年後に起った北清事変は、いよいよ支那の無能を全世界に暴露した致命的な乱であった。自分は翌年の十二月、礦路学堂を卒業したが、鉱山技師として金銀銅鉄の鉱脈を捜し出せる自信は無かった。自分がこの学校に入学したのは、鉱山技師になりたいからでは無かったのだ。現在の支那を少しでもよくしたいために、何か新しい学問を究《きわ》めてみたかったのだ。そうしてこの三年間、自分はこの学校において、鉱山の勉強よりも、西洋科学の本質を知ろうとして、そのほうの勉強ばかりして来たのだ。だからその
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