」という小品文を発表せられた。その一部を抜萃《ばっすい》すれば、
[#地から2字上げ](松枝茂夫氏の訳に拠る)
「(前略)第二学年の終りになって、僕は藤野先生を訪ねて、もう医学の勉強はやめようと思うこと、そしてこの仙台を去るつもりでいることを、先生に告げた。先生の顔には深い悲哀の色が浮び、何か言いたげな御様子であったが、とうとう言い出されなかった。
『僕は生物学を学ぼうと思います。先生が僕に教えて下さった学問は、やはりそれにも役立つかと思います。』だが実は、僕は生物学を学ぼうと決心していたわけではなかった。先生がひどく悽然《せいぜん》とした様子をしていらっしゃるのを見たため、先生を慰めるつもりで心にもない嘘《うそ》をついたのである。
『医学のために教えた解剖学の類は、怕《おそ》らく生物学には大して役にも立つまい。』と先生は、歎息しておっしゃった。
立つ四五日前に、先生は僕をご自分のお宅に呼んで、そうして僕に先生のお写真を一枚下さった。その写真の裏には『惜別』と二字書かれてあった。そして僕の写真も呉《く》れるようにと希望された。だが僕はその時あいにく写真を撮《と》っていなかった。先生は
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