づき難いものが感ぜられて、学校で顔を合わせても、互いに少し笑って、
「元気?」
「ああ。」
 など頗《すこぶ》る卑怯な当りさわりのない挨拶《あいさつ》を交すだけで、藤野先生から言いつけられたような慰安激励の話題を一つも持ち出す事が出来なかった。また、下手《へた》にそんな事を言い出して、敏感な周さんをかえって窮屈がらせるような結果になっても、つまらないと思い、このたびのノオトの災難も何も、私は一さい知らぬ振りを装《よそお》うていた。
 ところが、一週間ほど経って、なんでも雪のひどく降っている夜だった。周さんが、頭から外套《がいとう》をすっぽりかぶり、全身雪で真白になって私の下宿にやって来た。
「さあ。おあがり。さあ。」と私は、この久し振りの周さんの来訪に胸を躍らせ、玄関に飛んで出て歓迎したが、周さんは、へんに尻込《しりご》みして、
「いいの? 勉強中じゃない? 邪魔じゃないの?」など、ついぞいままで見せたこともないようなおどおどした遠慮の態度を示し、ほとんど私にひっぱり上げられるようにして、部屋へはいり、
「いまね、そこの美以《めそじすと》教会に行って、その帰りなんですがね、淋しくてたま
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